Works
「多目的ホールの騒音対策」
ここに示す例は、神奈川県内の多目的ホールで空調騒音が大きくて会話がよく聞こえないとのことで騒音調査を行った事例です。このホールは内容積300㎥、表面積310㎡の比較的小規模な大きさで、講演会のほか習い事や運動場スペースとしても利用されていますが、空調騒音が大きなため会話にも支障が出る状態でした。図1は空調機を動かした状態で騒音の周波数分析を行った結果で、室内の騒音レベルは56~58dBで静かな環境で使用するには40dB前後まで騒音を下げる必要があります。図2は室内中央でパルス音を発生させ、ここから少し離れた位置でこの音の波形を観測したもので直接音のパルスの後に反響音による波形が続く様子が見られます。残響時間は周波数1kHzで1.4秒となっており講演室としてはちょうどよい値と考えられます。空調騒音の対策方法として空調機と空調ダクトの間に消音器を設置する、空気の出口に遮蔽板を取り付けるなどの方法が考えられます。
著者:金澤 純一
「新型防音パネルの開発と騒音対策施工事例」
兵庫県内でのトンネル工事において、設置しているバッチャープラントの騒音対策に開発したパネルを使用しました。この施設は騒音規制法に係る特定施設であったため、規制値以内に収める騒音対策が必要となり、我々が監修、開発した薄板の防音パネルを使用した防音ハウスの施工、設置をさせていただきました。
著者:上鶴嘉伸
「縮尺模型を使った騒音予測と対策」
縮尺模型実験は騒音予測や騒音対策の検討を行ううえでの便利な方法のひとつです。最近はコンピュータシミュレーションソフトが充実しているため、費用や手間のかかる縮尺模型実験はあまり使われなくなっているようですが、音響要素を満たしていれば簡易な模型でも十分に目的を達成できるものと考えられます。ここにあげる例は茨城県内の解体工場内の食堂兼談話室について音環境対策の検討に縮尺模型実験を行った結果です。この談話室は工場の建物をそのまま利用しているため、天井、壁、床はほとんど吸音がなく室内の反響音で会話にも支障がある状況です。模型の室は写真1、2のように床、壁、天井を合板で作り、内部を硬質塩ビ板で反射性にして作製してあります。
この談話室には上部に開口部があるので模型にもそれに相当する開口部を設けてあります。模型室内の一端から音源スピーカを使ってパルス音を発生させ、室の中央や他の位置に設置したマイクロホンでそれを検出し、ディジタルフィルタを使って周波数ごとに残響波形を求めた結果が図1です。(a)の室内に吸音材がないときの波形に比べて、(b)の天井と壁の一部に吸音材を取り付けた時の波形では室内の反響音が大幅に減少して音源のパルスがはっきり見えるようになっています。
フィルタの出力信号を逆から2乗積分することによって図2のような残響曲線が得られ、これから残響時間T60(s)が求められます。縮尺模型では縮尺比に応じた周波数や時間の換算が必要で、今回は1/10模型を使っているので実物換算では周波数を1/10、残響時間を10倍にしてあります。
図3は吸音材取り付け前後の残響時間変化、図4は吸音材を取り付けた時の室内の音圧レベル変化で、反響が少なくなったことによって室内の音環境が改善されることがわかります。
著者:金澤 純一
「薄板の振動減衰試験」
多くの騒音は板の振動による放射音が原因となっています。金属板やガラス板のような内部損失の小さい材料から発生する音は板の共振による振動増幅によって余韻のある騒音が長い時間続きます。この場合、板の共振エネルギーを粘弾性体などで吸収させる制振処理(またはダンピング処理)を行うと発生する騒音を小さくすることができます。薄板の振動エネルギーが吸収される度合は、通常損失係数η(イータ)で表されますが、この値は複素弾性率の虚数部と実数部の比で定義されるもので、共振による振動増幅や時間的な振動の減衰割合と深い関係があります。
図1のような質量m(kg)、バネk(N/m)、粘性ダンパーc(Ns/m)からなる1自由度共振系の場合は、損失係数ηの違いによって周波数応答では図2のような振動増幅の発生、時間応答では図3のような振動減衰時間の変化となって表れます。損失係数が大きいほど余韻の生じる時間が短くなって騒音の発生が少なくなり、損失係数を10倍にするごとにおおむね10dBの騒音低減が期待できます。また板材に制振効果を持たせることによりコインシデンス効果による遮音欠損の改善にも効果が期待できます。損失係数は材料によって大きく異なり、鋼板やアルミ板などの金属板では0.0001~0.00001、ガラス板では0.001、木材では0.01程度の値となっています。またゴムやプラスチックスは温度によって損失係数がかなり変化しますが0.02~0.1程度の比較的大きな値を示します。損失係数測定は振動モードを単純化するために図4に示すような短冊形試験体を使用し、振動モードごとに半値幅⊿fと共振周波数f0 の比を測定して(1)式から計算するか、60dB当たりの振動減衰時間T60とf0を測定して(2)式から計算します。
よく使われる損失係数測定法には二本吊り法と中央加振法があげられます。前者は図5のように短冊形試験体の節を細い糸などで吊り、打撃などで加振した時の振動波形を非接触振動センサで検出する方法で金属の内部損失など非常に損失係数の小さな物質の損失係数を正確に測定できる反面、振動モードごとに吊る位置を変えるため大きな手間がかかります。後者は図6のように短冊形試験体の中央をインピーダンスセンサを介して加振器で加振し、この位置の周波数応答関数を測定する方法で、共振点及び反共振点の共振周波数と半値幅から損失係数の測定を行います。この方法はインピーダンスセンサの質量や大きさの影響で正確な周波数応答関数が測定しにくいなどの課題はありますが一度の設置で広い周波数範囲や温度範囲の損失係数が測定できるためよく使われます。
図7、図8は2枚の鋼板の間にゴム系制振材料を挟んだ制振鋼板とガラス板の損失係数を測定した例で両者の損失係数には数10倍から数100倍の違いがみられます。
著者:金澤 純一